高齢者の入浴中の事故が増加傾向にある。
今回はその現状を伝えるとともに、“リスクを低減するために住まいの断熱化が果たせる可能性”を示唆した研究成果を紹介したい。
増加傾向をたどる「高齢者の入浴中の事故」
「交通死亡事故者数」の減少と反比例して増加傾向にある「不慮の溺死及び溺水の死亡者数」。
以前の記事でも取り上げたが、改めてその現状が消費者庁のデータとしてまとめられている。
※消費者庁ニュースリリース(令和元年12月18日)掲載資料に一部追記
「転倒・転落」とともに、「不慮の溺死及び溺水」が増加傾向にあることが見て取れる。
そして、その「不慮の溺死及び溺水」の中でも「入浴中」の事故は約7割にものぼっている。
大半が浴槽内の事故のことを指していると言っても過言ではないのかもしれない。
※消費者庁ニュースリリース(令和元年12月18日)掲載資料に一部追記
合わせて「おぼれ」事故による救急搬送者数は11月から3月までの冬季に多く発生することもわかっている。
こうした現状を受け、消費者庁では「入浴中の事故への注意喚起」をホームページ上に掲載している。
※消費者庁ホームページ内「冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください!」
高齢者の入浴中の事故リスクの低減が国としても喫緊の課題であることがわかる。
ここでは特に(1)と(2)の2つに注目しておきたい。
住まい環境に左右される入浴習慣の違い
入浴中の事故リスクの低減のために住まいが果たすべき役割が、様々な研究から浮かび上がってきている。
特に、慶應義塾大学の伊香賀研究室が行っている「室温が入浴習慣に及ぼす影響の分析」によって、多くの知見が得られつつある。
以下、『住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査 第4回報告会』にて報告された研究成果の一部を紹介したい。
住まいの温熱環境を「温暖群」「中間群」「寒冷群」の3つに分けて、入浴時間と湯舟温度を実際に調査した結果である。
■ 群分け
1.温暖群/居間室温も脱衣所室温も18℃以上
2.中間群/居間室温が18℃以上、脱衣所室温が18℃未満
3.寒冷群/居間室温も脱衣所室温も18℃未満
※スマートウェルネス住宅等推進調査委員会 上記「第4回報告会」(2020.2.18)報告資料より
3つの群それぞれのデータを分析した結果、温暖群と比べると中間群では、湯舟の温度が“あつめ”である確率が有意に高く、寒冷群ではその傾向がさらに強い。
つまり、 居間や脱衣所が寒冷であればあるほど、熱めのお風呂に入る可能性が高くなっていることがわかった。
「脱衣所が寒冷であればあるほど、熱いお湯につかる・・・」
ヒートショックのリスクが非常に高まるのは容易に想像がつくだろう。
※スマートウェルネス住宅等推進調査委員会 上記「第4回報告会」(2020.2.18)報告資料より
入浴時間の長さと室温との関連は見られなかったようだが、手足の冷えを感じている群は入浴時間が長いことがわかった。
前述の消費者庁ホームページ上に掲載されている注意点の1つ「湯につかる時間の目安は10分まで」という点からすると、決して望ましい姿とは言えない。
リスク低減のポイントは住まいの温熱環境にあり
いくつかの分析データを紹介したが、いずれも「家全体を暖かくすることで、“ 熱め ” のお風呂に “ 長く” 浸かるという危険性を低減できる」可能性が示された貴重な研究成果である。
冬の足音がすぐそばまで聞こえ始めているこの時期、温度差の少ない暖かな室内で過ごすことで、高齢の方々にとって入浴時間が危険なものにならないようにしたい。
もう一度家庭内の事故リスクに思いを巡らせ、できるところから住まい環境を改善していくことが求められているのではないだろうか。