住まいと健康

Health

冬場は特に注意したい!室内の上下温度差。

ヒートショックに関する話題では、よく「部屋間温度差」という言葉が聞かれる。
しかし部屋間の温度差だけではなく、同じ室内の「上下温度差」も健康に影響をもたらすことが知られている。今回の記事では、その上下温度差に関する実験の成果を紹介したい。

 

上下温度差が生まれる部屋の現状

一般的に日本では、寒さの厳しい冬場に、様々な暖房を用いて室内の快適さを保っている。
エアコン、ストーブ、ファンヒーターなどが代表的だろう。
通常温かい空気は天井付近に停滞し、室内下部は低い温度になるが、これらの暖房器具を使用している時は、その垂直方向の温度勾配がさらに生じやすくなるという。

ある実験モデル住宅での実験によると、エアコン暖房稼働時、床温度は22℃、床上110cmの温度は27℃と、5℃の温度差が生じていることがわかった。
もちろん暖房器具の種類や部屋の構造の問題でその差には違いがあるが、私たちは普段この程度の温度差がある環境に身を置いて生活しているといえる。

 

上下温度差がもたらす健康への影響は?

室内の上下温度差による健康への影響を検証した3つの実験結果を紹介したい。

1つ目の実験は、異なる環境条件下(①エアコン暖房・②床暖房・③暖房無し)での血圧値の変化を調べたものだ。
人工気候室内において健康な若年男性8名と高齢者男性8名にそれぞれの環境下で90分座っていてもらい、その血圧値(収縮期血圧:いわゆる上の血圧)の変化を計測している。

ひと目でわかるとおり、若年者についてはどの環境下においても血圧値に大きな変化はない一方、高齢者については、時間が経つにつれ収縮期血圧の数値は高くなっており、特に「暖房無し」の環境ではぐんぐん数値が伸びてしまっているのが見て取れる。
エアコン暖房や床暖房を使用している環境では、高齢者でも血圧の上昇はある程度抑えられている。

 

2つ目の実験は同じく人工気候室内において、上部温度を25℃に一定に保ち、下部温度だけを25℃、22℃、19℃、16℃ にコントロールした状態での血圧値(収縮期血圧)を検証したものだ。
※ 同じくそれぞれ90分椅座位(いざい)にて滞在

グラフのとおり、若年者は下部温度が低くなっていっても血圧に大きな変化が生まれないのに対し、高齢者の場合、下部温度が22℃以下になると明らかに収縮期血圧が高くなっている。
室内の“上下温度差”を生まない環境が、とくに高齢者にとっては、身体に負担を与えない一つの大きなポイントであることがこの実験からもわかる。

 

3つ目の実験は男女の温熱快適性を検証した実験だ。

若年男性と若年女性それぞれ8名ずつに、2つ目の実験と同じ環境下で120分滞在してもらい、大腿部皮膚温(いわゆる太ももの皮膚温)を測定したもの。

下部温度が下がるにつれて大腿部皮膚温が低下するのは想像のとおりだが、下部温度が19℃、16℃の環境下では、皮膚温低下は男性に比べて女性の方が顕著に大きいことがわかった。
この男女の明らかな違いはとても興味深い。
一般に冷え性は女性に多いイメージだが、そのイメージは現実的にも正しいと言えそうだ。

 

上下温度差は3℃以上にならないように注意

紹介した実験では、高齢者においては上下温度差が上部25℃に対して22℃以下になると、高血圧症や心疾患を有していない方でも、血圧が若年者に比べ上昇することが認められた。
心血管系への負担を考慮した時、上下温度差は3℃以上にならないような配慮が必要であると言えよう。
快適空間を規定している国際規格「ISO7730」においても、室内の上下温度差は3℃以内にすることが推奨されていることからも、この実験で得られた結果には説得力がある。
また、仮に若年層であっても、女性の場合は下部温度が低い上下温度差がある環境では、下半身を暖かく保護しながら、適切な暖房方法を選択することが大切であることもわかった。

 

冬場の寒い室内では、まず大前提として、暖房を用いて室温を最低でも18℃以上にはキープし、かつ、上下温度差を3℃以上に広げないことが望ましい。
部屋間温度差のみならず、室内の上下温度差、特に下部温度の低下による温度差が生まれないような暖房方法を採用し、身体の不快感、ひいては健康への影響を最小限に留めることを意識していきたい。
快適で健康的な住まいの条件として、また一つ重要なポイントを知ることができた。

 

※資料・データ出典 / 『健康に暮らすための住まいと住まい方エビデンス集』
(健康維持増進住宅研究委員会/健康維持増進住宅研究コンソーシアム 編著)