住まいと健康

Health

【アーカイブ企画】パッシブ建築を基本に最小限のアクティブな設備で補う家/石戸谷 裕二氏 室内気候研究所主席研究員

株式会社北洲 ×大人の情報誌「りらく」コラボ企画でお届けした「住まいから健康を考える」( 2019年〜2020年)。全12回にわたる連載の中から、特に反響の大きかった回を厳選してご紹介します。今だからこそ改めて読み直したい、時代に左右されない「住まいと健康の深い関わり」をぜひご覧ください。

※本記事は2019年10月号掲載当時の内容を基に構成しております。

 現代の人間は、1日の多くを人工的な環境の中で過ごしています。オフィスや学校、病院、そして住まいも。その滞在時間は、一般的な会社員で90%、小・中学生で85%にも達していると言われています。(※1)機能や能率を追求するあまり、人間が自然と隔絶されてしまっていることは、人類歴史上、稀有な経験であり、心理的、生理的な強いストレスの原因になっていることは間違いないでしょう。

 どこへ行ってもエアコンなどの設備に頼りすぎているのが、今の日本の建築事情。そうした中、本来人間が心地よいとする自然の変化を住まいの中につくり出すことに取り組んでいる、室内気候研究所の主席研究員・石戸谷裕二さんに、お話を伺いました 。

石戸谷 裕二(いしどや ゆうじ)氏

北海道生まれ。室蘭工業大学大学院工学研究科博士後期課程修了。建設設備会社で空調設計に25年間携わる。その間、札幌ドームの設計にも参加。北海道職業能力開発大学校の教授時代には、パッシブソーラーハウス工法の研究開発に従事。(財)ヒューマン・サイエンス事業団の委託研究員、東京大学生産技術研究所の民間研究員などを経て、現在、室内気候研究所の主席研究員。工学博士。

人が望む幸福感と住まい

――理想とする住まいづくりについて、伺っていきたいと思います。

 まず、日本人の幸福感についてお話ししましょう 。内閣府の調査で、何を幸せと判断するかという問いに、圧倒的に多かった答えが「健康」「家族円満」「経済的なゆとり」の3つでした。(※2)

  健康と住まいは密接な関係があります 。健康を育むのは、寝起き等の生活の場である住まいと言っても過言ではありません。しかし、その住まいの中で、健康を害する問題が起きています。

 現在とくに注目されているのは、高断熱・高性能の住まいなのに、家の中で高温や低温による被害が起きていことです。年間、家の中で熱中症にかかる人は約2万5千人(※3)、寒中症(※ヒートショック)は約1万8千人(※4)との報告があり、その被害者は、赤ちゃんやご長寿の方といった環境弱者です。

 北洲さんは、東北地方で寒さのせいで亡くなる子どもたちを無くしたいという思いで創業されたと聞いていますが、私もそうした被害者を無くすことが使命であると考え、仕事を続けてきました。

温度も、空気も。大切なものは目に見えない

――たしかに、住まいの中でも重篤な被害は起きています。

 温度の他に、もう一つの問題は空気です。どちらも目に見えないものですが、健康にとって重要です。住まいの一番内側の壁紙は、日本ではほとんどが塩化ビニール製です。塩化ビニールは静電気を帯びやすく、汚れや埃が吸着しやすい性質があるため、床だけ清掃しても汚れた空気が部屋の中を循環することになります。

 人間がどの位の空気を必要とするかというと、1日の食事1kg、水2kgに対して空気は20kg(※5)。食事や水は吟味されているのに、空気の質には無頓着というのも問題でしょう。

 家づくりは料理に例えられます。①素材の吟味=資材の選定、②素材の特徴をいかす調理=建築設計、③美味しくいただくための盛り付け=デザインで、健康のために料理に気を配るように、健康のための住まいづくりにも関心が向いていけばいいと思います。

パッシブ建築を基本に、最小限のアクティブな設備で補う家

――より良い住まいづくりとは。

 重要なのは建築自体です。これは家そのものの基本性能を左右するものであり、断熱技術も含まれます。北洲さんには健康的な生活のための建築技術として「パッシブ設計」がありますが、パッシブとは受動的という意味で、自然を上手に取り入れて住まいの環境性能を高めるという意味があります。冬は大きな窓から日ざしを取り込み、夏には軒やひさしの出で日ざしをさえぎるといった設計や、断熱材を上手に使うことによって厳しい寒さ・暑さから人の命を守ります。

パッシブの反対語はアクティブですが、アクティブは設備に当たります。この2つは決して相反するものではなく、補完し合うもの。つまり吟味した建築技術で室内環境をつくり、足りない分を設備で補います。さらに、設備はエネルギーがないと動かないことを考えると、建築、設備、そしてどんなエネルギーを使うかのバランスが家づくりには重要になるのです。

――北洲にはパッシブ設計の基本性能を補うものとして、全館空調システム「エアロテック」があります。

 空気調和の略が空調です。空調の目的は3つ、温度を整え、湿度を整え、空気の清浄度を高めること。エアロテックは部屋ごとに温度の設定ができる全館空調システムです。人間の免疫力は、快適な湿度の範囲内でゆっくり動くことで向上することが確認されていますので、それを考慮して利用するのが望ましいでしょう。例えば、「睡眠の質」を高めるために、入眠時には快適範囲よりやや低めの室温18〜20℃が好適とされています。日中の活動時の至適室温は20〜24℃です。また湿度調整も大切で、40-60%でインフルエンザウイルスの90%が不活化します(※6)。清浄度から見ると、フィルター清掃は欠かせませんが、エアロテックの場合は床置き型なので掃除はしやすいですね。

エコに有効な「蓄熱」

――最後はエネルギーについて。

 断熱がしっかり備わった家では、熱を蓄えて有効に使うという蓄熱が重要です。その点、北洲さんの壁材「エコナウォール」は、蓄熱と調湿の効果を併せ持った素材ですね。日本に昔からある土蔵は、一年中内部の温度と湿度が保たれるため、家宝が置かれたり蔵座敷があったりしたわけですが、そうした先人の知恵を今にいかされています。

また、蓄熱は省エネルギーにも有効です。太陽光エネルギーが得られるのは日中ですが、使うのは朝・夕・夜。つくった熱を蓄えて使うことで、環境にも経済的にも優しい住まいを実現できます 。

 住まいは、健康で円満で充実した人生を送るための器です 。何を優先させるか考え、素材選びから、設計など、住まう人とつくる人がコミットしながら行っていくことが大切ですね 。

蓄熱塗り壁「エコナウォール」

※1 総務省「平成8年社会生活基本調査」などから推計 ※2 内閣府「平成22年度国民生活選好度調査」による ※3 総務省「平成30年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況」より ※4 厚生労働省「人口動態統計調査」より。寒中症とは、室内の温度差により失神、心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こす現象。いわゆる「ヒートショック現象」 ※5 臨床環境医学第9巻第2号 村上周三「住まいと人体 ―工学的視点から―」のデータから算出 ※6 「相対湿度と微生物の相関関係」ASHRAE報告書1985年より

(出典:仙台発・大人の情報誌りらく 2019.10)