
株式会社北洲 ×大人の情報誌「りらく」コラボ企画でお届けした「住まいから健康を考える」( 2019年〜2020年)。全12回にわたる連載の中から、特に反響の大きかった回を厳選してご紹介します。今だからこそ改めて読み直したい、時代に左右されない「住まいと健康の深い関わり」をぜひご覧ください。
※本記事は2019年掲載当時の内容を基に構成しております。
今でこそ、「ヒートショック」という言葉が広く知られるようになりましたが、37年前、重要問題として浮上していた東北における脳卒中による死亡率の高さについて、要因の一つに室内温度差があるのでは、と考えた研究者がいました。その人が、今回登場いただく現東北大名誉教授の吉野 博先生です。
「まず、実態を知ること」と、山形大学医学部と共同で山形の町々で調査を行い、脳卒中発症と室内温度との関係を明らかにしながら、啓発活動にも力を注ぎました。以来、たゆまず東北の住まいと健康について取り組んでこられました。

吉野 博(よしの ひろし)氏
東京大学大学院工学系研究科博士課程中退後、東京大学生産技術研究所の助手を経て、1978年に東北大学工学部建築学科の助教授、1992年に教授となる。2013年、日本建築学会会長に就任。現在、東北大学名誉教授。1984年、北洲とともに学会・産業界に呼びかけ、東北住宅性能研究会の立ち上げを実現。研究住宅を北洲が建築し、共同研究を行う。2006年には、北洲が建設した実験住宅「ベクサス」で環境測定を行い、その結果を翌年開催された建築の空気質や換気、省エネに関する国際会議「IAQVEC」で発表。
家の中の温度差が脳卒中発症の危険を招く
――吉野先生は長年、東北の住まいと健康についての調査研究に取り組んでこられました。その発端から伺いたいと思います。
ちょうど私が東北に来た1978年あたりは、東北は脳卒中の死亡率が全国平均よりも高く、原因は塩分の摂りすぎと冬の寒さといわれていました。しかし、東北よりも寒冷な北海道の死亡率は全国平均並みなのです。
そこで1982年から、住環境と脳卒中の関連について山形大学医学部と共同で研究を進めました。山形県の3つの町で調べた結果、家の中の温度差が大きいこと(ヒートショック)が、脳卒中の発症に影響を及ぼすことが推察されました。
――山形での調査は、どのようなものだったのでしょうか。
山形県内の3つの町、朝日町・羽黒町(現:鶴岡市)・八幡町(現:酒田市)で、居住者の衣食住の条件、特に住宅の各部屋の温度と死亡率との関連を調べました。死亡率が全国平均の2倍の八幡町と平均以下の朝日町で比較すると、外気温度が0℃のときトイレの温度は平均4.5℃位で殆ど同じですが、居間の温度には両者で平均4度の差があり、八幡町の方の温度が高いとともに、薄着という傾向でした。
こうした室温の差のある環境を移動すると、血圧に大きな変動をもたらし、血圧が上がる際に脳出血、下がる時に心筋梗塞・脳梗塞などを発症することになるわけです。
北海道の死亡率が高くないのは、全室暖房の住宅が多く、部屋ごとの温度差が少ないことが関係しているといえます。
断熱改修を行い、適切に暖房することで一日中どの部屋も20〜23℃位に保つことができますが、残念ながら、断熱仕様を施していない既存の住宅は多く、引き続き東北の住宅の課題となっています。

なかなか進まない断熱改修 その理由は・・・
――全室暖房をしている住宅の割合は、北海道と東北ではどのくらい違いますか。
おおよそですが北海道で70〜80%、東北では数%といったところではないでしょうか。なかなか断熱改修などが進まない理由の一つに、居住者は長年生活してきた環境に慣れてしまっているということがあります。
宮城県の志波姫町(現:栗原市志波姫)と唐桑町(現:気仙沼市唐桑町)でのアンケート調査では、今の住居で特に寒さを感じていないということが明らかになりました。
「暑い」から「非常に寒い」までの7段階で、約80%の人が「暖かい」「やや暖かい」と回答。ところがその温度はというと、居間で6〜23℃と幅広く、平均値は「暖かい」が14℃、「やや暖かい」が12℃と極めて低いことがわかりました。
ほとんどの場合、他と比べることが少ないのでこうした回答になりますが、実際、高断熱高気密住宅に引越しすると多くの人が「快適だ」「朝の起床が楽になった」「夜のトイレが億劫でなくなった」「裸足で過ごすようになった」「子どもと高齢者の家の中での活動範囲が広がった」と回答し、健康効果も40%の人々が実感しています。
「ヒートショック」については、健康知識として広く知られるようになってきましたが、これからは高断熱高気密住宅が暖かく快適であることを実際に体験してもらうことが大切でしょう。その点、北洲さんが実施している宿泊体験は大変よいと思います。
健康な住まいには空気環境も大切
――温度以外に目を向けた場合、他にどんな問題がありますか。
近年問題とされたのがシックハウス症候群ですが、頭痛や咳、腹痛をもたらす原因は、建材の接着剤に使われるホルムアルデヒドなどの化学物質と特定され、2003年には建築基準法が改正され、新築や改築の際は機械換気の設置などが義務付けられるようになりました。
建材メーカーなどの努力もあって、ホルムアルデヒド濃度が国の指針値を超える住宅は、約30%だったのが10%位まで減少。また、ホルムアルデヒド以外でも健康に影響を及ぼす可能性がある化学物質TVOC(総揮発性有機化合物)についても規制されています。
気をつけなくてはいけないのは、住宅ばかりでなく、家具や柔軟剤などからも揮発性化学物質が出ていること。最近では、微量の化学物質に反応して健康を損なう「化学物質過敏症」の問題も浮上してきています。空気環境への興味を喚起していくことも、住まいと健康を考える際、ますます大切になっていくと思います。
レベルを上げた取り組みと東北らしい住宅未来像も
――「東北の寒い家をなんとかしたい」という同じ思いを持って、北洲ともタッグを組んでこられました。
先にふれた山形での調査ですが、結果を受けて八幡町でも啓発活動が行われ、4年後に同じ100軒の家を調査したところ、10軒で改善が見られました。それでも、暖房している居間とトイレの温度差は15℃もあり、ヒートショックが起こる可能性は否定できない状況でした。
東北の寒い家を暖かく健康的にしていくためには、さらにレベルを上げた取り組みが必要だと思っています。また一方、未来住宅といわれるZEH住宅で太陽光発電を屋根に搭載すれば、どの地方も特徴のない似たような住まいになってしまうことも危惧しています。かつてのかやぶき屋根のような、東北の住宅らしさをどこに求めるかも追求していきたいですね。

(出典:仙台発・大人の情報誌りらく 2019.11)

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