既存住宅の性能を向上させるリフォームは、省エネルギーの観点からもここ数年、国が力を入れて推進している分野の一つだ。さまざまな補助事業が創設され、後押ししている。
それでは、リフォームの目的、その結果見られた変化、当事者の実感はどのようなものだろうか。今年1月に公表された、令和2年度の「高性能建材による住宅の断熱リフォーム支援事業」についての調査報告書が、それらを明らかにしている。
※同事業は「一般社団法人 環境共創イニシアチブ」を執行団体に、既存住宅の省CO₂と低炭素化を促進する断熱改修の支援を目的として、1次~3次公募(2020年5月~11月)が実施された。補助金交付は全国478件。調査報告書は、このうち320件についてのアンケート結果を分析した。
断トツで高い「断熱改修のニーズ」
リフォーム工事の実施理由として、断トツのトップは「室内の暑さ/寒さへの対策のため」(82.5%)で、2番目の「築年数に応じた老朽化のメンテナンスのため」(60.6%)を大きく引き離している。
断熱改修のニーズの高さがくっきりと表れていると言える。
戸建住宅、集合住宅とも断熱改修の理由は「リビングなどの環境改善」
断熱改修に焦点を当ててその目的を尋ねると、戸建住宅では、「リビングなど主な居室の暑さ/寒さといった環境を改善するため」が93.4%で突出している。
集合住宅でも、トップは同じく「リビングなど主な居室の環境改善」(74.3%)だが、2番手の「カビや結露の発生などの、宅内環境を改善するため」(65.7%)の割合の高さも注目される。
住宅の種類によるこうした違いは、リフォーム事業者としても納得の結果だ。
改修前後で暖房設定温度に変化が
断熱改修の前後での暖房設定温度の変化を見ると、改修前より設定温度を1℃以上下げた割合は77.1%にのぼる。
改修後の暖房設定温度が平均で2.3℃下がった、との結果も示されており、温熱環境の変化がはっきりと表れている。
さらに、改修による光熱費は、「安くなった」「やや安くなった」を合わせて70.7%。
リフォームは日々の家計のやりくりにも温かいようだ。
断熱改修への満足度は?
断熱改修への満足度は、「満足」「やや満足」を合わせて92.5%に達している。
居室の温熱環境の改善が一番の目的とされる中で、暖房設定温度も光熱費も下がった結果が表れていると言える。
実際、改修後の状況について、「暖かく快適に過ごせるようになった」(86.8%)との回答が他を大きく引き離してトップになっている。
2番目の「遮音性が上がり、外の音が気にならなくなった」(54.9%)は、断熱性向上の副次的なメリットとして、実際によく聞かれるものだ。
こうした結果は、今後リフォームを検討する人たちにとって、何よりの安心材料になるのではないだろうか。
一方で、報告書には「期待した程の断熱が感じられない」「室内ドアの施工が悪い為、断熱遮音が悪い」「結露が発生する」など、不満の声も示されている。
いずれも施工業者の質による問題との印象を覚える。
断熱改修の効果は確実にあり、その成否を左右する要素として、しっかりとした実績を持つ信頼できる施工業者に依頼することも重要だと、調査結果は示しているように思える。
重要性が増す既存住宅の性能向上リフォーム
脱炭素化を着実に進めることが求められる中で、既存住宅の断熱性能を向上させるリフォームは重要な役割を果たす。
コロナ禍や国際情勢の複雑化によるエネルギー価格の高騰などを考えれば、その重要性はさらに増すだろう。
国の後押しも上手に活用して、省エネと健康を両立し、経済性も備えた暖かい住まいを一人でも多くの人が実現してほしいものだ。
◆出典/一般社団法人 環境共創イニシアチブ「令和2年度 次世代省エネ建材支援事業 調査報告書(2022年1月)」
※図表も上記資料より引用