住まいと健康

Health

生活習慣病は住環境も要因の「生活環境病」?

私たちが健康について考えるとき、よく耳にする言葉の一つに「生活習慣病」があります。

厚生労働省の健康情報サイトによると、生活習慣病とは「食事や運動、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣が深く関与し、それらが発症の要因となる疾患の総称」とされています。
具体的な疾患として例示されているのは、がんや高血圧、循環器疾患(狭心症や心筋梗塞などの心臓病、脳卒中などの脳血管疾患など)、糖尿病などです。

生活習慣病という言葉は1996年頃から使われるようになったとされ、今では広く社会で認識されています。
しかし、前述のような疾患の要因は生活習慣だけではないのではないか、そんな論点についての調査結果を踏まえた新たな枠組みが今年に入り提示されました。
それは、上記の疾患の要因には生活習慣に加えて、「住まいの暖かさをはじめとした居住環境が深く関わっており、『生活環境病』でもある」という枠組みです。

「生活環境病」とはいったいどのようなものなのでしょうか。

参考:生活習慣病とは? | e-ヘルスネット(厚生労働省) (mhlw.go.jp)

住宅の温熱環境が健康に与える影響の調査から見えてきた新たな要因

「生活環境病」という新たな枠組みが示されたのは、今年2月に開催された「住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査 第7回報告会 ~国土交通省スマートウェルネス住宅等推進事業に基づく『生活環境病』予防の医学的エビデンス」(主催:一般社団法人 日本サステナブル建築協会)でのことです。

そこでは、室温と家庭血圧や血中脂質、心電図異常と室内環境などの調査・研究成果を踏まえ、これまで生活習慣病と広く認識されてきた高血圧や循環器疾患が、住宅の断熱性能の不足や不適切な暖房の使用を要因とする「生活環境病」でもあることが示されました。

調査は「断熱改修等による生活空間の温熱環境の改善が居住者の健康状況に与える効果について検証」することを目的に行われ、「断熱改修前後調査」と「追跡調査」から成ります。

2014~2019年度は改修前後における居住者の血圧や活動量等健康への影響が検証され、2019年度以降も長期的な追跡調査が実施されています。

出典:「住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査 第7回報告会 ~国土交通省スマートウェルネス住宅等推進事業に基づく「生活環境病」予防の医学的エビデンス~」(一社)日本サステナブル建築協会

健康リスク回避への世界基準「室温18℃以上」

なぜ、住宅の温熱環境と健康の関係が注目されているのでしょう。

その大きな節目となったのは、WHO(世界保健機関)が2018年11月に発表した「住まいと健康に関するガイドライン」の中で言及した、住まいの暖かさに関する勧告です。

WHO HOUSING AND HEALTH GUIDELINES

そこでは、「住宅の室温は健康への悪影響から居住者を保護するため、十分高い必要がある」として、「冬季における室温として18℃を推奨(小児・高齢者はもっと暖かく)」と強く勧告されました。

WHO HOUSING AND HEALTH GUIDELINES

寒い季節でも室温が18℃以上に保たれた暖かい住まいが、健康リスクを回避するために必要な世界基準の指標として発信されたわけです。

同時に、そうした住環境を実現するために、「冬季を有する気候帯では、住居に効率的で安全な断熱材を設置する必要がある」との勧告も示されました。

日本の住宅環境の現状は…

しかし、日本の住宅環境は世界基準に照らして、大きく後れを取っていると言わざるをえない状況にあります。

先に紹介した報告会では、日本においてはWHOが強く勧告する室温18℃以上に保たれた住宅がわずか1割にとどまることが紹介されました。

また、日本における現行の省エネ基準(断熱等級4)を満たす住宅も13%に過ぎず、暖房の利用についても世帯あたりの最終エネルギー消費量を比較すると、欧米諸国の約4分の1という低さでした。

低断熱・低気密の住宅は、高血圧や循環器疾患などの健康リスクを高めるだけでなく、寒さから換気を忌避しがちになり換気不足にも陥りやすく、結露によりカビやダニの発生を助長して、呼吸器疾患のリスクも高めかねません。

暖かい住まいを日本の標準にするために

私たちにとって切実な問題である高血圧や循環器疾患は「生活環境病」でもある。
この新たな枠組みは、健康で快適な暮らしを実現する上で、住宅の断熱性能向上が重要な鍵となることを明示しています。

しかし、住宅の新築や建て替えは、費用や一時的な引っ越しの必要など、決して簡単なことではありません。

一方で、住宅の断熱性能向上は、さまざまな健康リスクの回避につながり医療費抑制にも役立つなど、私たち自身はもちろん国や地域にとっても対策が急がれる重要な課題です。
そこで、国や各自治体では、住宅の断熱・省エネ性能を高めるための費用を補助するさまざまな取り組みを始めています。

例えば、国は今年度「住宅省エネ2023キャンペーン」(先進的窓リノベ事業、こどもエコすまい支援事業)として、大々的に補助事業を展開しています(こどもエコすまい支援事業は、補助金申請額が予算上限に達したため、交付申請の受付は終了)。

国の住宅省エネ2023キャンペーン

私たち住宅のつくり手としても、新築やリフォームを検討されているお客様に断熱の重要性をしっかりとお伝えするために、当サイトをはじめお客様とのさまざまなコミュニケーションの場面で最新の情報をご提供し、実際の断熱性能を体験できる機会を創出するなどの取り組みを進めています。

暖かい住まいでの暮らしが日本の標準となるよう、これからもできることを一歩一歩着実に前進させていきます。