
株式会社北洲 ×大人の情報誌「りらく」コラボ企画でお届けした「住まいから健康を考える」( 2019年〜2020年)。全12回にわたる連載の中から、特に反響の大きかった回を厳選してご紹介します。今だからこそ改めて読み直したい、時代に左右されない「住まいと健康の深い関わり」をぜひご覧ください。
※本記事は2019年8月号掲載当時の内容を基に構成しており、肩書き等は当時のものを併記しております。
日本人の平均寿命は年々伸び続け、今や人生100年時代とまでいわれています。長生きすることはいいことですが、できるなら健康に幸福に長生きしたいもの。健康には遺伝などの生物学的要因の他に、住宅環境や地域環境も大きく関わっていることが、近年の研究で明らかにされつつあります。健康で長生きするために望ましい住環境とは…今号から連載にて考えてまいります。
第1回は、2019年6月8日に仙台市内で開催された日本老年看護学会のランチョンセミナーで、法政大学デザイン工学部建築学科 川久保俊准教授が行なった講演をご紹介します。

法政大学デザイン工学部 准教授(当時) 川久保 俊 氏
博士(工学)。自治体および建築産業とSDGsに関する研究や、健康を維持増進する環境に関する研究などに取り組む。
※2026年1月現在、慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科 准教授。講演当時から指摘されていた『室温と健康』の重要性は、近年の省エネ住宅への関心の高まりとともに、ますます注目されています。
住まいから健康を考える
日本人の平均寿命は年々伸び続け、今や人生100年時代とまでいわれています。 長生きすることはいいことですが、できるなら健康に幸福に長生きしたいもの。 健康には遺伝などの生物学的要因の他に、住宅環境や地域環境も大きく関わっていることが、近年の研究で明らかにされつつあります。 健康で長生きするために望ましい住環境とは・・・今号から連載にて考えてまいります。
第1回は、2019年6月8日に仙台市内で開催された日本老年看護学会のランチョンセミナーで、法政大学デザイン工学部建築学科 川久保俊 准教授が行なった講演をご紹介します。
地域環境や住まいが健康を左右する
日本は、極めて早いスピードで高齢化が進行しています。 厚生労働省は、高齢者の尊厳の保持と自立生活支援のために、可能な限り住み慣れた地域で人生の最期まで自分らしく暮らせるよう、地域包括ケアシステムの構築を推進しています。 そうした状況に対応して建築学会でも、健康にフォーカスした研究が進んでいます。
地理空間解析の一手法であるクラスタ/外れ値分析を用いて、全国の死因別死亡数データを分析した結果、地域によって死因に特徴があることがわかってきました。たとえば肺がんは北海道に多い。様々な要因が考えられますが、喫煙や日常生活で汚れた空気が、高気密・高断熱の室内で対流している可能性があります。胃がんは日本海側に多く見られます。他地域に比べて日照量が少ないことや食文化などが影響しているのかもしれません。東北は、脳出血や脳梗塞などの循環器疾患のホットスポットになっています。これらの病気は、主に寒さで血管が収縮することによって引き起こされます。 東北のとくに北部地方は、寒冷な地域であるにもかかわらず断熱住宅が十分に普及していないと言われており、屋内温度は北海道よりも寒い場合があります。こうした住環境が要因の一つになっている可能性は大いに考えられます。

ヒートショックによる心疾患・脳卒中が問題に
現在、住宅の問題としてフォーカスされているのは、室内の温度です。 冬期に注目すると、病院よりも自宅のほうが、心疾患による死亡率の上昇割合が大きい。自宅では光熱費を気にしてエアコンや暖房を消してしまうのでしょうか。低温の室内では、血圧が上昇したり、肺の抵抗力が弱まったり、血液が濃くなったりします。それにより、脳卒中や肺炎、心筋梗塞のリスクが高まると言えるでしょう。
また、暖かい部屋とそうでない部屋との温度差に身体がついていけずに激しい血圧の変動が起こるヒートショックも問題となっています。近年の交通事故死者数が約3,500人であるのに対し、ヒートショックが原因とみられる脱衣所や浴室での死亡者数はその倍の約7,000人にもなっているという報告があります。 高齢であるほど温度に対する感受性が高く、男性よりも女性のほうが気温の影響を受けやすい点にも注意が必要です。
日本の家はウサギ小屋!?海外では室温の法規制も
かつて「日本の家はウサギ小屋」と、揶揄されていたことがあります。これは、日本で住宅の需要が急激に増加した時代に急ごしらえのように建てられた、小さくて寒く、耐久性の低い家を指して外国の人が言った言葉です。冬の朝、凍えるように寒い日本の家は、海外では考えられないことなのでしょう。
住まいの質が健康に大きな影響を与えるということは世界的にも注目されており、WHO(世界保健機関)では住宅と健康に関するガイドラインを発表しました。その中で、寒い季節に人々の健康を守るために安全でバランスのとれた室温として、18℃が提案されました。国土交通省支援のもとで北海道から九州までの約2000世帯を対象とした大規模な室内温熱環境の調査が行われていますが、WHOが推奨する冬季室温18℃以上を満たす住宅の割合が、全体の半数に満たないことが判明しました。
寒い家は身体に大きな負担をかけるということが、さまざまな調査や研究からわかってきています。イギリスでは法規制により一定の温度を下回る住宅には解体命令を下すこともあるそうです。日本はほかの先進国に比べ、温熱環境の改善が不十分。断熱性の向上が必要であることは、今後つよく発信していく必要があると言えるでしょう。
高齢者の暑熱災害も深刻化 早急に対策を
また、夏期は「暑熱災害」が深刻になってきています。熱中症による救急搬送者は、2018年は10万人にせまる勢いでした。全体の約半分が高齢者で、さらに、その約半分が室内で亡くなっています。今後、地球全体の温度が上がっていく傾向にあり、さらに暑さに弱い高齢者も増えていくので、早急に対策を講じなければ暑熱災害は深刻化していくでしょう。

これらのことから、総合的な住環境を良くしていくことで、多様な病気予防に良い影響があるのでなないかと思われます。 国連の持続可能な開発目標(SDGs)の17項目の中でも、健康は諸問題の解決の鍵となるとされています。 病気になる前段階から健康を意識し、医学や介護、住宅の分野で協力していくことが必要と考えられます。
(出典:仙台発・大人の情報誌りらく 2019.8)

住まいと健康
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