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脱炭素社会へ一歩、住宅の断熱・省エネ性能向上に向け法案成立へ

4月22日、脱炭素社会の実現に向けて待ち望まれていた重要政策が閣議決定された。
住宅をはじめ新築する全ての建築物の省エネ性能を向上させるための「建築物省エネ法改正案」だ。
今国会(6月15日閉会見込み)に提出され、成立する見通しとなった。
世界から大きく遅れてきた日本の住宅の省エネルギー政策が、ようやくスタートラインに立つ。
2050年までのカーボンニュートラルを目指す日本にとって、エネルギー消費量の3割を占める建築物分野での取り組みは、脱炭素社会の実現に向けて大きな一歩となる。


[国交省 プレスリリース(2022年4月22日)]

 

■「建築物省エネ法改正案」のポイントは?

改正法案は、これまでオフィスビルなどの中・大規模の非住宅が対象だった断熱性能などの省エネ基準を、2025年度から住宅をはじめ新築する全ての建築物に義務付ける内容。
成立すれば、2025年度から断熱等級4が適合義務化され、これを下回る住宅は建てられなくなる。
既存住宅についても、省エネ改修に対する低利融資制度が新設される。

 

■20年以上も塩漬けにされた断熱等級

ただ、ここに至る道のりは長かった。

2020年10月26日、菅義偉前首相が「2050年までのカーボンニュートラル実現」を宣言。あらゆる分野で脱炭素化、省エネ性能向上への取り組みが進む中で、住宅を巡る政策は後れを取ってきた。

断熱性能については、1999年に制定された断熱等級4が最高という状態が四半世紀近く続いた。
この間、自動車業界も家電業界も省エネ性能は大きく向上。
ところが、住宅業界では、早くから等級4をはるかに超える性能を実現してきた住宅会社が数多く存在する一方、政府の省エネ対策導入の遅れから、断熱性能が不十分で多くのエネルギーを消費する住宅もまた建てられ続けた。

当初は2020年までに予定されていた住宅への省エネ基準の適合義務化も先送りされていた。

 

■有識者・住宅業界からの働きかけが停滞感を打破

そこに風穴を開けたのが、2021年2月24日に開かれた「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」の第5回会合だった。
前真之・東京大学大学院准教授が「真の省エネは健康・快適な暮らしとセットであり、健康・快適は日本の全ての家で実現すべき基本性能」と鋭く指摘。
これに対して、河野太郎規制改革担当大臣(当時)は「外相時代、欧州の関係者から日本の建築物の省エネの取り組みが遅れているとずいぶん聞かされた。住環境が全く改善されるきざしがないのは大きな問題」と応じ、「最大限の省エネを最大限のスピードでやるのが必須」と言い切った。


[2021年2月24日にLIVE配信された第5回総点検タスクフォース]

 

これ以降、住宅の省エネ政策は加速し始めた。

断熱等級は大きく前進。
2022年4月には、実に23年ぶりに上位等級となる断熱等級5が新設された。
さらに、10月には断熱等級6、7がスタートする。

※断熱等級5はZEH基準の水準にある断熱性能で、断熱等級6はHEAT20(2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会)による基準で3段階のうち2番目に高いG2に準拠した断熱性能。その上位にHEAT20で最高ランクのG3に準拠した断熱等級7がある。

 

また、建築家の竹内昌義・東北芸術工科大学教授が発起人となり、「建築物省エネ法改正案」の国会への早期提出を求める署名活動を展開。
1万5,000人を超える個人と450を超える団体から寄せられた署名は2022年4月、政府・与党に提出され、法改正の機運を大きく後押しした。


[竹内氏が立ち上げたキャンペーンには多くの賛同の声が集まった]

 

■より一層の住宅の性能向上が今後求められる

2030年までに、断熱等級5が適合義務化の見通しと言われている。
北洲をはじめ、独自の基準を設けて高性能住宅をつくり続けてきた住宅会社にとって、高いレベルの省エネ基準が早期に義務化されることは喜ばしい。
その一方で、必要最低限の性能で良しとする家づくりをしてきた業者には、取り組みの転換が厳しく求められることになるだろう。

既存住宅についても、省エネ改修を促す制度が設けられ、性能向上のリノベーションが社会的にも要求されるようになる。

 

■これからが正念場、試される日本の本気度

「暖かく、省エネルギーで、快適・健康に暮らせる高性能住宅」を、多くの国民にとって身近なものとするための一歩が、ようやく踏み出されようとしている。
住宅の省エネ政策で世界から大きく後れを取ってきた日本が、脱炭素社会の実現に向けてどのように取り組むのか。
その本気度が試されている。